「棟梁に学ぶ」コーナーです。
ここでは建築を作り上げて行く工程が、1階ロビーから地下1階へ行く時に目を引いた、唐招提寺金堂の組物を実例として解説、展示されています。
まず図面を引きます。
次に引いた図面の原寸図を作ります。
床に原寸図が描かれています。
「唐招提寺金堂組物原寸図 紙の図面ではわかりにくい細部の納まりは、実物大の原寸図を描くことで確かめる。そこでは軒の反り具合も実際通りである。自らの目で、実際の大きさで確かめる。手間はかかるが、質を高め、間違いを防ぐ最良の方法である。」床に書かれたキャプション
部材の型板を作ります。洋服を作る時の型紙に相当するものだそうです。
型板は「フリーハンドで引いた線を刃物で直してつくりだすのである。刃物が切れなくては自然で優しい曲線は生み出せない。」そうです。
型板から部材を作ります。
丸柱は8角から16角、32角と角を落として作って行きます。
隣には「規矩術」の説明パネルがあります。
『三次元の複雑な納まりを、曲尺と図法を駆使して解く規矩術(きくじゅつ)。棟梁となる人物に欠かせない大工技術の神髄である。その難解さから「大工と雀は軒で鳴(泣)く」の言がある。』
その複雑な軒が展示されています。ガイドの方は滑らかに軒が反ってゆくのが日本独特の美しさで、反りのきつい中国とは異なっていると説明されていました。
「道具と手仕事」のコーナーです。
大工道具の標準編成です。179点あります。
このコーナーでは標準編成の道具のそれぞれが数多く展示されていますので、そのなかから私が気になった道具をご紹介します。
曲尺です。
私の父は建築関係の仕事をしたことはありませんが、日曜大工をしていて、曲尺を「かねざし」と呼んでいました。私は鉄製の物差しなので、そう呼ぶのかと思っていました、今の今まで。
ネットで見るといろいろな呼び方があるようです。
ガイドの方が私に巻き尺を渡し「この丸太の円周を測ってください。私はこれ(曲尺)で円周を測ります。」と言われて丸太の直径を測り円周の長さを出されました。私が測ったのと同じ円周の長さでした。
下記のHPのページ下部に「丸目を使う」項目をご覧になれば、曲尺を使った円周の出し方が分かると思います。
更に曲尺はただ長さを測ったり、直角を見たりするだけではなく計算尺としても使えるそうです。
一種類しかないと思っていた墨壷がこんなにあるとは驚きです。
私は墨壷を見るとすぐに「斑鳩(いかるが)」という言葉が浮かび、場面としては三谷幸喜監督「みんなのいえ」で棟梁役の田中邦衛が天井裏に墨壷を置くシーンが浮かびます。
初めて見る「水盛管」です。水平を出す時に使われる道具で、10年くらい前までは使われていたそうです。
容器に水を入れ、ホース先を移動させても容器の水面とホース先の水面は同じ高さになる原理を利用しています。
水平を出す方法は下記HPを参考にしてください。
【庭造りDIY】水盛り・遣り方のやりかた【超図解!】 – caDIY3Dオフィシャルサイト
「蟇股(かえるまた)を刻む 寺社建築の細部を飾る、優美な曲線をもつ彫刻。曲面の曲がり具合に応じて、異なる刃幅の丸鑿を使い分ける。」
すごい!
目立てをしながら「使い込まれた両刃鋸」(上)と「新しい両刃鋸」(下)です。
すごい!
「正確な溝をつくる工夫 溝をまっすぐ削るため、定規の役目をもつ板が付いている。」鉋です。
すごい!
曲面を削る鉋です。
すごい!
木組と大きな木槌。
昔々大工さんが木槌で柱を打ち込んでいたのを見ていたなぁ。
「世界を巡る」コーナーです。
『押し使いと引き使い ヨーロッパは鋸も鉋も「押して」使う。アジアの国々でも同じだ。ところが日本では全く反対に「引いて」使う。木の硬さと力の入れ方、あるいは加工精度の追求度合いに原因があると見られる。』解説パネル
中国の道具です。
「ヨーロッパの代表的な木造建築であるエスリンゲン市庁舎(1430年建立)。柱梁と腰貫に筋違(すじかい)を組合わせた軸組を繰返し、特徴的な意匠をつくり出している。」写真のキャプション
ドイツ壁模型(縮尺2/3)
ヨーロッパの道具。
怖い!斧を持ち、甲冑を付けた騎士が古城を徘徊しているイメージ。
地下2階へ移動します。
「和の伝統美」コーナーです。
茶室のスケルトン模型の外観は、「竹中大工道具館は木の香りがいっぱいです。その1」でご覧下さい。
茶室内部です。
組子細工の障子です。
ガイドさんに「たいしたもんやなぁ。ところで、なんぼすんのん?」と聞いているおじさんがいました。
「よう聞かれますねん。クラウンの上級グレード1台分ぐらいですわ。」
《600万円〜700万円ぐらいするのん?!(ダークサイドの私)》
「あっ、触らんとってください。」とガイドさん。
若い姉さんが何を思ったか、指で細工部分をつまんで引っ張ろうとしています!
《・・・???!!!(ダークサイドの私)》
「名工の輝き」コーナーです。
千代鶴是秀の工房を再現しています。
「木を生かす」コーナーです。
「様々な木目を楽しもう 丸太から材木を切り出したとき、どのような木目ができるのか、木を取り出して、それぞれの面をながめてみよう。」説明パネル
これは「さわってみよう」マークがあるので、さわってみよう。
木目が一目で分かります。
それぞれの木の香りの違いが体験できます。
ガイドさんの説明を聴きながら、館内を2時間弱で巡りました。神経をガイドさんの説明に集中させていたのでぐったり疲れました。配偶者はちゃんと説明を聴こうと緊張し過ぎて、地下2階へ行く頃には眠気が襲ってきたそうです。
やはり私たちは理系は無理、論理思考も無理、でした。
それでも木の香りの中で、木造建築とそれを支える美意識と技の凄みは十二分に理解出来た楽しい体験でした。
震災で否定的なイメージのある木造建築ですが、大工道具館のように骨組に鉄骨を使うなど、技術面、コスト面で工夫をして木造建築が残れるようになってほしいものです。