神戸市中央区にある『諏訪神社』はちょっと不思議

諏訪神社」があなたに魔法をかけることはないと思いますが、

Annie Lennox「I Put A Spell On You」

www.youtube.com

 

ビーナスブリッジや大龍寺、再度公園などへ行くときに諏訪神社の境内を通ることがあります。

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本殿から右に行くとビーナスブリッジを経て、左に行くと大師道を経て、どちらも大龍寺、再度公園などへ行けます。

f:id:pochinokotodama:20190711105740j:plainずっと不思議に思っていたのは、諏訪神社本殿前には線香立てがあったり、

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中国で縁起が良いとされる赤い色の文字で名前が書かれている提灯があったり、

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本殿右隣のお稲荷さんの蝋燭立てには、赤い蝋燭があったのが不思議でした。

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そこで図書館にあった

「ミナト神戸の宗教とコミュニティ」

関西学院大学キリスト教と文化研究センター・編/神戸新聞総合出版センター

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を読むと

本来神社において、蝋燭や線香を上げる習慣はないが、やはり華僑参拝者のために神社がわざわざ用意したと考えられる。

第四章 華僑社会と宗教 諏訪神社 より

そうです。 

 

諏訪神社のある諏訪山の麓には、神戸中華同文学校(日本の小中学一貫校にあたります)があったり、関帝廟があったりして中国人も多く住んでいます。

神戸華僑は今から約一四〇年前、一八六八年、神戸港が開港した時に、ここに来ました。一一人か一二人ぐらいで、広東省浙江省の寧波の出身の人が長崎から来ました。・・・調べると一八九〇(明治二三)年には、福建省広東省から一四三二名の華僑が来ております。

第四章 華僑社会と宗教 華僑における神戸への移住 より


また諏訪神社本殿の南側には「金亭」と呼ばれるレンガ造りの炉があります。

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最初「何でゴミ焼却炉」をこんなとこに置くんや?と思っていましたが、これはゴミを焼くためのものではなくて、「紙銭(しせん)」を焼くための炉です。

中国の民間信仰的な考え方によると、紙銭を焼けば、あの世で本当の銭として通用し、祖先があの世で暮らすための生活費や、天・地・水三界の神々への献金などとして用いる。

第四章 華僑社会と宗教 諏訪神社 より

関帝廟にもあるのですが、その時も「何でゴミ焼却炉」をこんなとこに置くんや?と思っていました。右側の煙突のある炉が「金亭」。

2018.10.14撮影

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以前、賽銭箱の右側に跪拝台が置かれていた。跪拝台は、長方形の赤い台で、膝を付く部分は畳になっており、手前に少し傾斜している。それは中国式の参拝方法である「一跪三叩頭(いっきさんこうとう)」をする時に使用されるものである。・・・現在は年寄りの華僑の参拝者が減っているため、本殿前の跪拝台は倉庫に保管されている。・・・しかし、正月など神社の特別な行事の際には、跪拝台は倉庫から出され、本殿前に置かれる。

第四章 華僑社会と宗教 諏訪神社 より

また

神戸でしか通用しない言葉 - pochinokotodamaのブログ

で紹介している、陳舜臣の「神戸ものがたり」のなかでも

中国風の跪拝の座具を置いている神社など、日本にはほかにないだろう。

神社に絵馬が奉納されるのがふつうだが、ここでは、そのかわりに献額である。

「金星台から」より

本殿の南側、「金亭」と呼ばれるレンガ造りの炉に向かって左側に倉庫があり、ここに跪拝台が保管されています。

倉庫の壁には「献額 」があります。

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倉庫の北側(左側)の壁にも「献額 」があります。

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なぜ諏訪神社を中国人が参拝するようになったのか、長い引用になりますが、

「ミナト神戸の宗教とコミュニティ」第四章 華僑社会と宗教 諏訪神社 では

諏訪神社に参拝する華僑の方々に由来を尋ねても「由来は分からないが、神社で祭っているのも神様だから」とか、「両親がお参りしているから」という回答しか得られなかった。・・・伝統的な中国社会において、民間の神々はそれぞれの役割を持ち、随時民衆の世俗的欲求と実用的心理を満たす。・・・宗教心深い華僑は、諏訪神社で参拝する動機が、真摯な神道の信仰にあるというより、宗教儀式を通して個人の幸福と利益を求めるためであると推測できる。

としています。

陳舜臣は『神戸ものがたり』の「金星台から」では

どうして神戸の華僑が、とくに諏訪山神社を崇拝するのか、いずれいわれはあったのであろうが、いまではもうわからなくなっている。熱心に「諏訪山さん」に通う華僑の老婆にきいても、「いい神様だからさ」と答えるだけだ。

・・・

神戸には華僑の信仰の中心として「関帝廟」があり、そのなかに観音や媽祖(マーツオ)も合祀されているが、その建立以前から、人びとは諏訪山神社に参拝していたのであろう。

・・・

建築などで、コロニアル・スタイルということばがある。植民者が本国ふうの住居を建てようと思っても、 風土や建築材料の関係で、まったくおなじものはつくれない。やむをえず、現地の同類のものと妥協する。それがコロニアル・スタイルなのだ。

諏訪山神社を華僑が拝むのは、信仰の面にあらわれたコロニアル・スタイルといえよう。

 と、述べています。

どちらにしろ諏訪神社に華僑の方が参拝する由来は、今となっては分からなくなっているようです。

「真摯な神道の信仰にあるというより(ミナト神戸の宗教とコミュニティ)」も、「信仰の面にあらわれたコロニアル・スタイル(神戸ものがたり)」として、諏訪神社参拝が今でも残っていると理解すればが良いのかなと思いました。

ここが、「諏訪神社」はちょっと不思議、と感じるところなのでしょう。

 

陳舜臣は、諏訪神社近くの「金星台」を神戸の街全体を眺めるのにふさわしい場所として勧めています。

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理由は、眺めは雄大ではないが街の「息吹と生活のにおい」が届いてくるが、ビーナスブリッジからの眺めでは街の「呼吸はすでに感じられない」そうです。

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しかし私は、神戸でも高層の建物が増えている昨今、「金星台」よりも港が見えやすいビーナスブリッジからの眺めが、お勧めです。